竜崎の荒い呼吸に吐息を合わせながら僕は天井を見上げている。ここは高級ホテルだから穴の開くほど天井を見ていても染みひとつなくてつまらない。ただ滑らかな質感が単調に続くだけ。天井にテレビでも在ったら面白いのに、と思いついたけどセックスの最中にテレビに見入ってたりしたらまるで倦怠期の夫婦みたいだと思ってそのアイディアを諦める。その間にも僕の脳細胞は後3秒たったら小さく喘ぐこと、と指令を出すので僕はそれに従う。できるだけ自然に、できるだけ彼が好むように。
「やっ、あぁんっ」
僕の小さな、作られた喘ぎ声は竜崎の耳にも入ったようで、彼は激しい律動をやめ僕の首筋に埋めていた顔をあげた。うっすらと汗を張り付かせたその額が目に入って、僕の心拍数は軽く跳ね上がる。その情欲に濡れた瞳は僕をたまらなく幸福をする。
「月くん」
その低い響きが耳から脳に伝わり、僕の体は震えた。竜崎はゆっくりと耳たぶに唇を寄せながら、囁く。
「気持ちよいのですか?」
僕の恋人は、時折こうやって言葉を求めてくるからいつも困る。本当は全然気持ちよくない、なんて本音を言ったらものすごくがっかりするのだろう。もしかしたら嫌われてしまうかもしれない。かといって、「うん、すごく気持ち良い」なんて言っても疑り深い彼は、僕の言葉を額面どおりに受け取った例はないから、信じてくれないと思う。だから僕はこの前と同じように、小さな声で
「・・・ばかっ。そんなこと聞くな」
と言って、竜崎の視線から顔を背けて枕に半分押し付けた。恥ずかしがっているように、余裕のないように、響くと良いなと思いながら。僕の左のほほは痛いほど竜崎の視線を感じていて火照っている。赤くなっていると思う。そこだけは本当だから、きっと僕は「本当は気持ちよいのだけれど恥ずかしがって答えない恋人」に見えたのだろう。竜崎は軽く笑って僕の頬に口付けてくれた。
「あなたは本当にかわいいですね」
褒められて僕は少し気を緩めた。その瞬間、体に中の竜崎がまたズルッと引き出されそして息をつく間もなくまた入り込んでくる。また辛い時間が始まったことを知り、僕はきつく目を閉じた。
何度抱かれても変わらないこの苦痛。即物的な痛みは最初のときほど覚えなくなったものの、言いようのない違和感と気持ち悪さはいつまでもまとわりつく。もともと僕は他人と触れ合うことが苦手だった。まさかここまでセックスが辛いとは思っても見なかったけれど。さっきまで竜崎に煽られ続けて微かな快感をやっと得たと思ったときに挿入されて、快感は潮をひくように逃げていった。僕だって男だから直接触れられたらそこだけは気持ちが良いけれど、それ以上の行為はただひたすら我慢の連続だ。それでも僕は自分からこの行為をやめる気はない。僕の恋人がそれを望む限りは。
恋人というのは僕が勝手に思っていることで、彼が実際のところ何を思っているのかは、はっきりとは分からない。キスやセックスを日常的にしているのでそうだと考えることに決めたのだ。もしこれが捜査の一環だったり、僕を欺いて信用させるためだとしたら、彼は大間抜けだ。どんなに僕が竜崎を愛したところで僕はキラではないから自白なんてできない。もっとも、愛故にこんな苦痛だらけの時間を我慢している僕のほうが滑稽か。
「何を考えているのです?」
ああ、失敗だ。気を紛らわせるために考えことをしていると彼はすぐ気づいてしまう。
「あっ、ん。竜崎のことだよ、ん」
これは本当。
「余裕ですね」
実際余裕があるのは彼のほうだと思う。彼は僕に喋る事も考え事も許さないと言う様に
動きを早めた。その激しさが彼がもうすぐ果てることを教えた。下肢は相変わらず擦り切れそうな引き攣れた痛みを訴えているし、激しく揺すられて絶え間ない吐き気が僕を苛む。こうなると後はただ彼の望み通りに僕は翻弄されるだけだ。小船で荒波の中に放り出されたような揺れ、気持ち悪さ、悪寒、何も考えられない、息もできない。早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ。
そしてようやく竜崎は軽く息を詰めて僕の中に精を放った。
ああ、
僕はこの瞬間に報われる。竜崎が達する時の言葉にならない小さな呻き声。この声を知っているのは僕だけだと思う幸福感。そのためにならなんだって我慢してやる。
竜崎、
竜崎。
いつも僕を疑っている君は世界一の名探偵だから、
僕の稚拙な演技などとっくに見破っているかもしれない。
それでも、この茶番が君を欺くためだと思ってはいけない。
僕がこんな馬鹿なことをしているのも
君を拒まないのも
全て君への絶望的な片思いのせいだ。
僕は君の大好きなキラになってあげることはできない。
僕がキラだったら君はどんなに喜ぶだろうね。
この体にはキラの残滓が残ってるか?
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わたしの話ではライトが全然竜崎のことが好きじゃない
話が多くて、ライトを竜崎大好きにさせてみようと思ったらこんなん
なってしまいました。ところでこの竜崎さんはライトのことを
どう思っているのでしょうか?きっと演技に気づいてて、でも面白がってる
のではないでしょうか…。