長い睫。
その下の、
紅茶色の瞳。
片目にかかる、
サラサラの髪。
それをかきあげる、
細くて長い白い指。
どれもわたしと似ていない。
「・・・さゆ?」
あーやっぱりその綺麗な声までも。
「きいてんのか?」
シャーペンを顔の前で軽く振られて目が覚めた。
お兄ちゃんに見とれていて、聞いてませんでした。
とは言えませんでした。
「ごっ、ごめん!もう一度教えて?」
上目遣いに見上げたら、しょうがないな、と呟いて
教科書に目を戻してしまいました。
数学。
英語。
物理。
体育。
世界史。
机の上の明日の時間割が目に入って、一つ一つお兄ちゃんにあてはめる。
どれも完璧。
わたしが適うのは一つもない。
だけどね。
いっこだけ。
お兄ちゃんが知らないものをわたしは知っている。
頭が良くて綺麗で優しいお兄ちゃん。
何でも完璧にできるくせに、あなたは恋をしたことがない。
ずっと見ているから分かります。
苦しくて夜も寝れない思いをしたことないでしょう?
話したくてきっかけを探したことなんてないでしょう?
視界に入れて欲しくて意味もなくうろうろしたことないでしょう?
あなたに初めての恋の歌を歌ってあげるのがわたしだったら、と
どんなに願ったことでしょう。
「・・・さゆー」
「聞いてないならもう教えない」
少し怒った声がして慌てて目を戻したら、少し拗ねた顔して上を向いてた。
わ。綺麗な横顔。
なんて思っちゃうダメな妹でごめんなさい。
いろんなごめんなさいを込めて頭を下げたら、ふっと笑う気配がして。
そして、頭をぐしゃぐしゃ掻き回されて、心臓が止まりそう。
「冗談だよ、ばか」
綺麗に笑うのを見て確信。
ああ、やっぱり恋をしたことがないんだね。
無防備に振舞いすぎだよ、お兄ちゃん。
恋する瞳をした人にそんなに気軽に触れてはいけませんって教えてあげたいよ。
できることなら、あなたに最初の恋の歌を聞かせてあげるのがわたしであったら
良かったのにね。
そしてわたしの中の小鳥は、今日も一生聞かせることのない歌を
練習しているのです。
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これはまたなんか恥ずかしいですね・・・。何でしょう。
さゆ月大好きです。多分ノートを拾う前の話だと思います。
1部さゆと2部さゆの激変ぶりに驚いて、beforeとafterのさゆを
いつか書いてみたくって、1部ぶりを前面に押し出したらこんな恥ずかしいものに。
そのうち黒いさゆを書いてみたい。
文体は思い切り作ってみました。