私は今、きっと何かに試されている。
未だかつて私を裁いたことのなかった神か、もしくは、私を誘惑したことのなかった悪魔に。それとも両者が結託して総がかりで試しているのか。
私の手の内に夜神月がいる。文字通りに。私の右手は、彼の首の後ろを掴み、私の左手は彼の手首を掴み。ジレンマによって右手と左手が相反する方向に彼を引き裂こうとしてしまわないように、私は気を配ることによって意識を正常に保っている。床に蹲って微動だにしない彼を両足のうちに囲いながら私は思案している。彼が俯いているのは好都合だ。きっとその顔を見たら私は乱れる。
「きみの美しさは私を壊す」
発するつもりのなかった言葉が私の口から漏れた。そのことをまずい、とも思わない。ただ零れただけだ。そしてその言葉に反応した彼が私を見上げた。その瞳には相変わらずなんの感慨もない。ただ音に反応しただけ。私はもうその事実に傷つかない。心は痛まない。空虚でもない。苦しくもない。ただ、彼の存在を全身で受け止めるだけだ。私はただの器になった。夜神月という存在で満たされるためだけの容器だ。
彼を捕らえてここに閉じ込めて3年。これだけの年月をかけて彼は私をこのように壊した。私の人間性、私の存在意義、私の望み、私の理性、ありとあらゆる私の感情と資質を彼は全て浚って、そして木端微塵にして、ただの器に再構築したのだ。そしてその年月で私も同じぐらい彼を壊した。その肌には数え切れないほどの傷跡がある。長い間かけて私が刻み付けたものだが、今となってはなんでそんなことをしたのかが分からない。後悔というよりは、理解ができないのだ。いくら肉体を傷つけてもなんの意味もないのだ。そのことを理解するまでに私は幾度となく彼を痛めつけた。彼は今床に静かに座っているが、それは私が彼の右足の腱を切断したからだ。きっと昔の私は、彼が逃げ出すことを恐れていたのだろう。
どこか遠い国の童話を思い出すように、彼をここに監禁した頃を思い出す。どうしても彼を処刑することができなくて鳥かごに閉じ込めた。その頃はまだ彼も私を嘲ったり侮蔑したような視線を寄越すようなこともあったのだろう。私は愚かにも彼に愛されたかったのだ。
私は愚かで、そして哀れだった。分かっていた、「これ」は一生私を愛さない。
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仮死状態だったPCから書きかけをサルベージ。
すみません自分でも何を書きたかったのか
分からないのです。どういうオチだったのでしょう。
多分冒頭の一文につながると思うというか、、、
思いたいのですが、、、。
竜崎は一体何に試されてたんですか?
昔の自分に聞きたい気持ちでいっぱいです。